第113回.目標を達成する人は「絶対にやらないこと」を3つ決めている五郎丸ルーティーンの生みの親が明かす「心の鍛え方」

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「目標はより高く」は本当か

「目標は高いほうがいい」


よくそう言われます。


言うなれば「ドリームゴール」を設定し、そこに向かってコツコツ努力していくという考え方です。


ただ、自分の能力や現状を無視して目標を設定しても、達成できないばかりか、自信を喪失し、モチベーションを失うこともあります。


「少しがんばれば達成できる」


スポーツ心理学では、そういう目標を設定するのが、いちばん適切だとされています。


いまの自分にはちょっと高いかもしれないけれど、その実現に向けて前向きに取り組む。その結果、達成したことが自信となり、そこからはじめて次のステップに進むことができるということが研究で明らかになっているのです。


エディさんは、そのあたりの目標設定が絶妙でした。


エディ・ジャパンがスタートしたとき、エディさんが掲げた目標は「世界のトップ10入り」でした。当時の日本は15位でした。世界の上位8強――南半球のニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ、北半球のイングランド、ウェールズ、スコットランド、アイルランド、フランス――とそれ以下のチームは正直、力の差があります。その差を埋めるのは、容易ではない。でも、残りのふたつに入ることは、決して不可能な目標ではありませんでした。


「ちょっとがんばればいける」


そういう目標でした。いきなり「トップ4」を目指すと言われても、選手には現実感がなかったでしょう。でも、「トップ10」ならば、「できるかも」と思ったはずです。


どうすれば10位にたどり着くことができるのか。それはエディさん以外誰にもわかりませんでした。先ほど述べたように、指導者が決めた結果に関する目標に選手がとまどうことは少なくありません。


そこで、リーダーズのミーティングを通じてエディさんにその具体的な方法論について説明を求めました。なんといっても、エディさんはオーストラリア代表ヘッドコーチとして、南アフリカのアドバイザーとして、それまでのワールドカップで二回決勝に進み、一度しか負けていない名将です。説明を聞いて、選手は「できる」と確信したと思います。


そして、2013年にウェールズ、2014年にトップ8に次ぐイタリアに勝ったりしたことで、同年11月には一時世界ランキング九位になりました。そうしたら今度は「ワールドカップでベスト8」に目標を修正した。


選手が言うには、エディさんは練習においても、「もうちょっとやったらできそう」と選手が感じた時点で練習を止めたそうです。だから、次の日も選手はがんばることができる。


テストマッチを組むときもそう。少しがんばれば手が届く相手に勝つことで、選手に「もっと強い相手にも勝てるかも」と感じさせたわけです。


南アフリカに勝つという目標だって、傍から見れば実現不可能に見えたかもしれませんが、必ずしも選手たちはそうは感じていなかったと思います。対戦が決まったときには、日本代表は上昇気流にありました。選手たちは、「ちょっとがんばればいけるんじゃないか」と思っていたはずです。実際、スクラムにおけるキーマンのひとりである堀江選手は、試合前にインタビューで断言していました。


「南アフリカくらいなら押せます」


非現実的なものではなく、自分がきちんと行動に移すことができること。それが目標設定には大切なのです。


「絶対に達成できる目標」も必要


先ほども「失敗を恐れる人が多い」と述べましたが、人がなぜ失敗やミスを恐れるようになるかといえば、掲げた目標が現実的ではないからということも無視できません。


とくにアスリートの場合、目標は監督やコーチから、すなわち他人から与えられたものであることが多い。アスリートでなくても、親や先生から「これを目指しなさい」と言われることは少なくないはずです。


選手はそれが達成不可能だとは思いません。だから、失敗すると、それは自分の能力が足りないから、低いからだと思い込んでしまう。その結果、自信を失い、モチベーションも下がってしまうのです。

そんな人に必要なのは、「どんなに小さくてもいいから、達成感を感じること」


そうすれば、自信がつき、自分の価値を感じられるようになります。人は成功を体験し、達成感を得ることで、「次はもっとがんばろう」という意欲が湧いてきます。



荒木香織氏の新著。日本代表を変えたメンタルトレーニングのすべてが記されている

そのためには、あえて絶対にクリアできる目標を設定し、それを連続してクリアしていくことも必要です。


最近はコピーすら満足にできない学生がけっこういます。驚かれるかもしれませんが、コピーを真っ直ぐとれない学生はめずらしくないのです。自分でコピーをした経験がないからなのかもしれませんが、当然、ページの順番を確かめて、ホチキス止めをすることもできません。


「どうしてそんなことができないの!」


つい怒りたくなりますが、怒っても何の解決にもなりません。怒ったからといってコピーがとれるようになるわけではないし、怒られれば、とくに最近の学生はとたんにシュンとします。


「コピーはこうやって真っ直ぐとるんやで」


私は、そう言ってやり方と気をつけるべきことを教えるようにしています。


すると、その学生は「できた」と笑顔を見せます。


「な、できたやろ?」


こんな簡単なことでも、できなかったことができれば自信になるし、ほめられればうれしいから、それからは「先生、コピーならいくらでもとりますよ」と、気持ちよく引き受けてくれるようになります。


そうなると、今度は本棚にファイルを並べるときも真っ直ぐ立てるようになる。「次、何かすることないですか?」と自分から聞くようになる。そうした達成感を重ねていくうちに、エクセルでシートを作成できるようになる、データを統計処理できるようになる……というふうになっていくのです。


「期限のない目標」は無意味


もうひとつ重要なのは、期限を切ること。つまり、「いついつまでに達成する」と明確にしておくことです。これがないと、目標とは言えません。締め切りや期限がなければ動こうとしないという経験は誰にでもあるのではないでしょうか。


日本人は、じつは目標を立てること自体は好きで、得意です。とくに自分に対する理想が高い人は、あれこれ目標を立てる傾向があります。スケジュール帳を真っ黒にしないと不安になるというのも、そのひとつでしょう。

賢者の知恵

2016年02月20日(土)

荒木香織

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